ES920を購入してから約半年が経ちましたので、使用感についてレビューしてみたいと思います。といっても豊富な機能を全部使い切れていない状態なので、最も基本的なピアノとしての品質についてレビューします。
ピアノ音色
アコースティックピアノの音色は全部で10種類あり、PIANO1とPIANO2のバンクにそれぞれ5つずつ入っています。音色はボタンを押すたびに一つずつ切り替わっていく方式で循環式になっています。
このうち基本となる音色はPIANO1に入っているSKコンサートグランドとEXコンサートグランド、PIANO2に入っているSK-5グランドピアノの3つです。これらはカタログに説明されている通り、すべて88鍵サンプリングされています。
DIP benchというフリーソフトを使ってサンプリングの状況を調べてみましたが、確かにこれら3つの音色はすべて88鍵サンプリングされていることがわかりました。
一方、強弱方向のサンプリング数については特に仕様では明記されていませんが、3つとも4段階でサンプリングされていることが確認できました。ただしサンプルが切り替わるベロシティーレベルは音色によって異なります。
SKコンサートグランドはカワイのフラッグシップモデルであるシゲルカワイ・コンサートグランドからサンプリングされたものであり、豊かな広がりと重厚感のある音が特徴です。シゲルカワイの音はよく「鐘」に例えられるように、低音域の響きがものすごいです。その反面、タッチが弱いとややこもった音に聞こえるかもしれません。
それに対してEXコンサートグランドは明らかに性格の異なる音色で、どちらかというとヤマハに近い明るくきらびやかな音がします。この2つは素人でもはっきり区別できるほど全く違うものです。人によってはEXの方が好みかもしれません。この2つは曲調や表現意図によって使い分ける楽しさがあると思います。
もう一つのSK-5グランドピアノはシゲルカワイのミドルサイズモデルであり、SK-EXよりは軽めで小ぢんまりとした音がします。これも表現意図によって使い分けるのがいいと思います。
それ以外のジャズグランド、メロウグランド、ポップグランドについては音色パラメータを調整しただけでサンプル自体は同じものが使われていると思います。元になる波形がSKコンサートグランドなのかEXコンサートグランドなのかまではわかりませんが、とにかく88鍵サンプリングされていることは確かなので、それの派生であることは明らかです。
一方、PIANO2に入っているポップグランド2、モダンピアノ、ロックピアノについては明らかに異なるサンプルを使っていると思われ、正直それほど上質な音質ではありません。サンプリングの数も少なめで、ややチープな感じの音色です。使い所はあまり思いつきません。
特筆すべきなのはアップライトピアノです。これは他のサンプルからの派生ではなく、独立したサンプリングが行われています。なぜか国内サイトでは明記されていませんが、海外サイトではカワイのK-60というアップライトピアノをサンプリングしたことが明記されています。残念ながら88鍵サンプリングではなく、2~3鍵盤ごとのマルチサンプリングとなっていますが、強弱方向には結構細かくサンプリングされているようです。音色はひとことで言えば学校の音楽室にあったような懐かしい感じの音がします。これは上質なサンプリングなので、表現意図によっては大いに使えると思います。
コンサートチューナー
ES920にはピアノ音色を自分好みにエディットできるコンサートチューナーという機能が搭載されています。これはピアノ調律師が奏者の要望に応じて音の微調整を行う作業を模倣したものです。いかにもピアノメーカーらしいこだわりが感じられ、ES920の購入に至った大きな理由でもあります。
ES920では以下の21項目について自在に調整することができます。
- タッチカーブ
- ボイシング
- ダンパーレゾナンス
- ダンパーノイズ
- ストリングレゾナンス
- 開放弦レゾナンス
- キャビネットレゾナンス
- キーオフエフェクト
- キーアクションノイズ
- ハンマーノイズ
- ハンマーディレイ
- 大屋根開閉
- ディケイタイム
- リリースタイム
- ミニマムタッチ
- ストレッチチューニング/ストレッチカーブ/ユーザーチューニング
- 音律設定
- 音律の主音
- 88鍵ボリューム
- ハーフペダルアジャスト
- ソフトペダルデプス
このうち音色に直接影響を与えるのはボイシングと呼ばれるパラメータです。これは弦を叩くハンマーフェルトの硬さをシミュレートしたもので、音の明るさが変わります。メロウからブライトまで6段階に調整することができ、88鍵独立して設定することまで可能です。もちろん音色ごとに設定することができ、レジストレーションあるいはスタートアップセッティングとして保存できるので、その都度設定し直す必要はありません。
ここまで音色を細かくエディットできる機能は他のメーカーの追随を許さないと思います。この機能を使いこなせれば相当自分好みの音色に仕上げることができます。
メインの音色であるSKコンサートグランドはデフォルトの設定ではかなり強く弾かないとややこもった感じになるので、自分はボイシングを「ブライト1」に変更しています。これで高域が強調され、いい感じの音色になりました。
鍵盤のタッチ
ES920にはカワイのミドルグレード鍵盤であるレスポンシブ・ハンマー・アクションIII鍵盤(RH3)が搭載されています。これは据置型のCN201などに採用されているものと同じです。ES920はめったに実機を置いていないので直接試奏できませんが、CN201はたいていの楽器店に置いてあるので鍵盤のタッチだけなら確認することができます。
鍵盤のタッチはひとことで言えば「相当重い」です。以前使っていたコルグD1と比べてもさらに重く感じます。だからアコースティックピアノを弾いたときもあまり違和感がありません。
鍵盤の戻りは比較的速く、しっかり指についてくる感じがします。連打性も問題ありません。鍵盤のぐらつきはほとんどなく、この辺はさすがに値段なりの高級感があります。
鍵盤の表面は光沢のない仕上げで、白鍵にはアイボリータッチが施され、サラサラとした感触です。ある程度の滑り止めにもなります。
全体的に良くできた鍵盤だと思いますが、RH3の欠点としてよく言われるのがメカニカルノイズの大きさです。確かに以前使っていたコルグD1に比べてもかなり大きく、特に鍵盤を離した時のゴトゴトという音が気になります。小音量で弾く時や壁の薄い集合住宅では騒音が気になるかもしれません。
注意すべきことは、同じRH3鍵盤を採用しているCN201では吸音材に改良が施され、ES920よりメカニカルノイズが小さくなっている点です。確かに鍵盤を離した時のノイズはかなり小さくなった気がします。残念ながらES920ではそういう改良は行われていないようです。代用としてCN201を試奏される時はこの点を念頭に置いて下さい。
ペダル
ES920にはよくあるスイッチ式の簡易ペダルではなく、ハーフペダルに対応したしっかりしたペダル(F-10H)が付属しています。ストロークや重さもアコースティックピアノに近いもので、本格的な演奏体験を味わえます。ハーフペダルの分解能は127段階あるので、微妙な調整が可能です。さらに3本ペダルが必要なら、別売りで3本ペダルユニット(GFP-3)も用意されています。これはスタンド一体型ではなく単体で持ち運べるタイプなので、ライブなどでの使用も可能です。
内蔵スピーカー
ES920には8x12cmの楕円形スピーカーが2基搭載されています。出力は左右20Wもあるので、かなりパワフルな仕様です。オーディオ周りは前機種のES8から改良された点とされており、今はなきオンキョーの技術が採用されているので音質にはこだわりが感じられます。
スピーカーは上面に配置されているため、演奏者の耳に直接届きます。外部スピーカーをつないだ方が高域は伸びる感じがしますが、内蔵スピーカーでも十分なレンジが確保されており、通常の演奏であれば内蔵スピーカーだけで十分でしょう。内蔵スピーカーだと音の振動が直接指先に伝わってくるため、アコースティックピアノのようなリアル感があります。地味ながら意外と見逃せないポイントです。
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